
今、僕達はモコモコした白い世界を擦り抜けて進んでいる
そう・・・何も見えやしない・・・
遠くからは、あんなにも柔らかく、優しそうに見えていたのに
無断で近づいた僕達が見たのは、まるで白い炎のように渦を巻き、恐ろしい顔で襲い掛かってくる彼の姿だった。
僕達は一瞬の戸惑いの後、ゆっくり彼の中へと吸い込まれて行った。
全く・・・何も見えやしない・・・
白くて爽やかに見えていた彼の姿は、もうここには無い。
中はとても薄暗く、四方八方から伸びた薄気味悪い手が、僕達の機体をガタガタ、ガタガタと容赦なく揺さぶり続ける。まるで行く手を邪魔するように。
ほんとに・・・何も見えやしない・・・
僕達は無言のまま、汗ばんだ手でしっかりとシートベルトを握り締めていた。
窓の外に在るべき物は何も無く、ただどんよりとした乳白色の世界だけが後方へと流れては消えて行く。
人は視界を失う事で恐怖を覚え、揺さぶられ続ける事でその恐怖は増幅していく。「早くここから出してくれ、もう充分だ」・・・だが、そんな言葉さえ、今は誰も発しない。
ふーっ・・・何も見えやしない・・・
僕がまたそう呟いた次の瞬間、薄暗く纏わり付いていた彼の姿が豹変し、眩い白い姿に変わっていた。
見えた・・・
目の前で突然大きく開かれた扉。
僕達をいじめ続けた分厚い雲の扉を抜けた先には、果てしなく続く北の大地がどこまでも広がっていた。
たっぷり積もっていた雪を溶かす力強い大地の息吹が、今そこから強烈に伝わって来る。
飛行機の小さな窓の中に広がる大きな世界に、僕達は直ぐに魅了され引き込まれていた。
すっかり揺れの収まったシートに、ゆったりともたれかかり、壮大な景色を眺めるうちに、僕達の凍りかけた心もまた、少しずつ溶けていくような気がした。
テーマ:写真にコトバをのせて - ジャンル:写真

ずしっ・・・ずしっ・・・
ゆっくり、一歩ずつ、僕は森の中を進んでいた。
何も急ぐ事は無い、彼は目覚め、今年もちゃんとこの森に帰って来た。
ずしっ・・・ずしっ・・・・ずしっ・・・
もうそこには、さくさくした落ち葉の感触はなく、ざくざくした雪の感触もない。
あるのは、ずしっり、しっかりとした大地の感触だ。
でも彼は、夏のようなカチカチに固まった大地でも、冬のようにグチュグチュ、ツルツルした大地でもない。
僕の重みを柔らかく受け止め、しっかりとつかまえていてくれる、彼にはそんな優しさがある。
僕は彼が帰って来た事を足の裏から知り、広がっていく彼を体全体で感じていた。
ずしっ・・・ずしっ・・・ずしっ・・・
「ふ〜っ」
切り株に腰を下し、大きく息を吐き出す。
歩いていると気づかないほどの小さな風が、今はとても心地良い。
頭上がざわめいている事に気づき、ふと視線を向けると、そこには・・・キラキラ輝く緑の新しい屋根が、森一面に広がっていた。
「おかえり」
僕は、《春》と言う名の《彼》に挨拶をしてから、静かにシャッターを切り始めた。
テーマ:写真にコトバをのせて - ジャンル:写真

僕達を楽しませてくれた素敵なエメラルドグリーンの湖は、堅くて冷たい冬の扉の下に、もうずっと隠れたままだった。
夏の間、彼はとても人気者だった。
多くの人達が毎日彼に挨拶にやって来て、直ぐそばに腰を下ろし、のんびりとその表情を楽しんでいた。
綺麗に空や山の姿を映し込み、いたずら者の風にはピチャピチャと音を立てて応えてあげ、太陽の温もりにキラキラ輝いて喜んでいた。そんな彼の姿を見ているだけで、僕達は皆、不思議なほど優しい気持ちになる事が出来た。
だが、秋も終わりが近づくと、エメラルドグリーンの彼は少しずつ顔色が悪くなり、やがて真っ白でカチカチの冷たい奴になってしまった。
もう風が吹いても、太陽が語りかけても、何も返事はしてくれない。
また、長い長い冬の扉を閉めてしまったのだ。
もう僕達にはどうする事もできない。一度閉まってしまった扉は、簡単には開ける事は出来ず、あとはただじっと待つしかなった。
ヒュー・・・ウゥー・・・
長く暗い冬が続き、彼に挨拶に来る人はもうほとんどいなくなった。
ビューウゥー・・・ヒュー・・・・
弱々しかった太陽が、また少しずつ元気を取り戻しはじめた頃、彼が動き始めた。
それまでどんなに押しても叩いても、踏み付けて蹴飛ばしてやってもびくともしなかった分厚い冬の扉に、今、ようやく《春》と言う名の亀裂が入り始めた。
ベキベキベキッ・・・・ガリガリ・・・グォシャーン
間近で聞いていると恐怖すら覚える凄まじい轟音を響かせ、あちこちからけたたましい《春の雄叫び》が響いて来る。
それはまるで、閉じ込められていた魔物が、深い眠りから目覚めたようにも見える。
長い間、自分を閉じ込めていた冬の扉に復讐をするかのように、彼はいつまでもいつまでも破壊活動を繰り返す。
そしてその容赦無い姿に、僕達はいつか不安を抱く・・・「もう以前の人気者の彼ではなくなったのか?」
ガリガリガリッ・・・
また大きな音が響き、薄くなった冬の扉の下から、見覚えのあるエメラルドグリーンの彼がチラッと顔を覗かせた。
「大丈夫、前のままだ」
彼の姿を見つけ、山も空も雲もみんな嬉しくなって集まって来た。
「押すな押すな・・・狭いんだから」
「みんな待ってたんだから、自分だけ映り込むんじゃないよ」
「ほらっ、並んで並んで・・・」
彼の姿は、まだまだ小さく弱々しい、でもみんなは声を揃えてこう言った・・・
おかえり・・・春の扉はもう直ぐそこだよ。
テーマ:写真にコトバをのせて - ジャンル:写真
「何をそんなに急いでるんだい?・・・」
僕は、空を見上げてそう呟いた。
冬、北国の太陽はとても恥ずかしがり屋で、気が短い。おまけに高い場所が嫌いなようだ。
遅い遅い朝陽がようやく昇り、やっと僕達を暖め始めたばかりだと言うのに・・・恥ずかしがりの彼は、山の向こうにチラッと顔を出しただけで、あまり高い場所には昇りたがらない。
北極海からの冷たくて意地悪な風にいじめられるのか、黒くて分厚い雪雲がくすぐったいのか、彼は低い位置を駆け足で通り過ぎ、もう反対側の山に隠れようとしている。
時計の針は、まだ2時だ。
森の木々が口々に文句を言い始めた・・・
「一週間も隠れてて、一体どこで何をしてたんだい」
「僕達は、ずっと寒い所で我慢してたんだぞ」
「久しぶりに顔を出したんだ、もう少し暖めておくれよ」
「雪が重くて、もう疲れたよ・・・早く溶かしてくれよ」
急ぎ足の彼は、すまなさそうにこう言った・・・
「ごめんね、でも山の向こうでもみんなが待ってるから、ゆっくりしてられないんだよ。でもね、その代わりに・・・」
彼はそう言うと、ぴかっと強く輝き、寂しかった雪原一杯に、綺麗な影絵を描いてくれた。
テーマ:写真にコトバをのせて - ジャンル:写真

三日間降り続いた雪が、ようやくやんだ。
ひらひら雪が舞うなんて・・・そんな可愛いものじゃない。
びゅーびゅー風が吹いて、吹雪が強まった日には、ほんの5メートル先だって見えやしない。
暗くて、寒くて、心細くって・・・そのまま凍り付いてしまいそうな不安な気持ちを、風と一緒に吹き付けて来る。
そんな時は、ただじっと待つしかない。
でも、風がやんだ。
ようやく雪もやんだ。
しばらくして雲も消えた。
待っていた太陽が戻って来た。
僕は急いでカメラを取り出した。
岩陰をそっと覗き込むと、ふかふかの雪が割れ、ぴょこんっ・・・と小さな枝が顔を出した。
枝は体を少し揺らして雪を払い、それから短く一つ伸びをした。
この枝がもししゃべれたら、一体何て言うんだろう?
「寒かった」・・・?
「重たかった」・・・?
それとも「淋しかった」・・・?
いや、「僕も一緒に散歩したい」って言うんじゃないだろうか?・・・ふかふかの雪の上を。
テーマ:写真にコトバをのせて - ジャンル:写真

新年あけましておめでとうございます。
本年も、フォトブログPhoto Breeze from CANADA ならびにPhotoOfficeFujie藤江幸宏写真事務所を宜しくお願い致します。
朝陽・・・
雪山に登る朝陽を、あなたは見た事があるだろうか?
ひっそりと静まり返った森の中、自分以外、他に何の生命も感じられない・・・
川も木も岩も、何もかもが凍り付いたマイナス40度の朝。
北国の遅い遅い日の出を、ひとりポツンと待ち続けていると、自分もこのまま凍りついていきそうな、そんな恐怖さえ感じる。
ようやく徐々に明るみを浴びて来た東の空を見上げ、フーッとため息をつくと、今吐いたばかりの息が、カキーンッと直ぐに凍って落ちて来そうな気さえする。
朝陽が待ち遠しい・・・
都会の生活で、これほど陽の光りが恋しいと感じる事があるだろうか?これほど陽の光りがありがたいと感じる事があるだろうか?
山の向こうから、寝ぼすけの冬の日がゆっくりと顔を出す。
そして早口でこう言った・・・
「おいっ、みんな起きろよ!・・・いつまでも凍ったふりしてないで、ちゃんと働けよ!」
太陽のその声を合図に、凍り付いていた何もかもがキラキラと光り輝きだす。
ほんの少し前まで、何の生命も感じられず、全てが凍り付いていた死の森が、今はあちらこちらで自己主張を開始した。
分厚い氷で覆われた川も、その下ではしっかり流れ続けている。
木々の細い枝も、雪の重みに耐えてちゃんと頑張っている。
森の合間には、夜の間に付けられたコヨーテの足跡がはっきりと残り、その足跡を覗き込むと、小さな小さな雪の一粒一粒までが、皆違う形をし、皆それぞれに光り輝いている。
こんな小さな発見が沢山詰まっている冬の朝が、僕は何故か凄く好きだ。
テーマ:写真にコトバをのせて - ジャンル:写真

子供の頃、クリスマスツリーを飾り付けるのは、いつも僕の役目だった。
別にそう決まっていた訳でも、誰かに言われた訳でも無い。
ただ、僕が飾りつけをしたかったのだ。
普段滅多に入らない倉庫の扉を開け、一番奥から細長い箱を引っ張り出す。
いつから使っているのか、既に箱の所々は破けたりしてかなり年季が入っている。
少しホコリの被ったふたをそーっと開けると、窮屈そうに枝を折りたたんだクリスマスツリーが眠っていた。
「さっ、出番だよ・・・そろそろ起きてよ」
起きたばかりのツリーは、いつ見てもなんだか恥ずかしそうで、少し寒そうだ。
ツリーはゆっくり大きく伸びをするように、一本一本の枝をぐーんっと伸ばし始めた。
たっぷり眠った後はきっと身体が軽いんだろう。
「じゃあ今年も頼むよ・・・」
ツリーを真っ直ぐ立てると、早速飾り付けを開始する。
金色のベル・・・七色のライト・・・ガラス製のスノーフレーク・・・
大きく伸びていた枝が、今度は重そうに反り返っていく。
恥ずかしがっていたツリーが、急に自信たっぷりに胸を張っているようで、なんだかとても面白い。
一番最後に、銀色の大きな星をてっぺんにのせると、ツリー全体がキラキラ、キラキラ輝きはじめた。
「・・・んっ?・・・あっ、ごめん、ごめん」
僕は急いで袋の中に手を突っ込み、綿で出来たホコホコの雪を取り出した。
そして静かにそっと枝の上に被せてあげる・・・
「これでもう、寒くないだろ?」
ツリーは嬉しそうにもう一度キラッと輝いた。
テーマ:写真にコトバをのせて - ジャンル:写真