Photo breeze from CANADA (PhotoOfficeFujie)

カナダ・ブリティッシュコロンビア州・ミッション在住のカメラマン《藤江幸宏》が、バンクーバーの情報サイト「メイプルタウン」に掲載の写真を中心に、フォト・ブログとして毎月1日と15日にアップロード。

癒し

      癒し




癒し系・・・

最近、日本の記事を読んでいると、この言葉を目にする機会が非常に多い。

癒し系・・・癒し系の性格・・・癒し系の顔・・・癒し系美人・・・癒し系音楽・・・癒し系の設計・・・癒しの宿・・・癒しの森・・・
例を挙げればきりが無いほどこの「癒し」と言う言葉が氾濫しているが、実は風景写真の中にもこの「癒し系風景」という物が存在する。


この日、日の出の前から撮影をしていた僕が、この湖に辿り着いたのは午後3時を少しまわった頃だった。

辺りには全く人影はなく、聞こえて来るのはただ岩を叩く波の音だけ。
夏だと言うのに冷たい高原の風が緩やかに吹き抜け、強い日差しと絡まって何とも言えない心地良さだった。
頭上にはどこまでも澄んだ青い空が広がり、ぽっかり浮かんだ綿雲が、ゆっくり楽しそうに風に流されていく。


それまでの一ヶ月間、山の中を転々として来た僕の体全体から、その時何かがすーっと抜けて行くような感じがした。

撮影旅行と言えば聞こえは良いが、知らない土地を撮影しながら転々と移動を繰り返すというのは、精神的肉体的両面でかなり過酷な作業が続く。当然、常に緊張やストレスを感じ、知らぬ間に疲労が蓄積されていく。
だがそんな事は撮影に夢中になっている間は忘れてしまうのだが、ふっと気を緩めた瞬間、それまで眠っていた何かが覆い被さって来るように、まるで体が石のように重く感じられ動けなくなってしまう。


僕がこの風景に出会ったのは、ちょうどそんなギリギリの時だった。

目の前に広がるのは青と白の単調な世界。

だがこの単調で神秘的な景色が、ワクワク、ドキドキ体の奥底から湧き上がるカメラマンとしての抑えきれない気持ちを僕にぶつけてくれ・・・と、同時に不思議な程に心を落ち着かせ、優しい気分にもしてくれる。


夢中で切り続けるシャッターの音は、いつしか波の音に絡まり、風に誘われ自然と同化していく。そして気が付けば僕自身も風景に溶け込んでしまっていた。


全身の力が抜け、ただのんびり湖畔に寝転がり、大の字になって見上げた先には、僕の身も心もリフレッシュしてくれる《癒しの風景》が何処までも広がっていた。




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激変

       激変


突然の激しい雨だった。



トレイルを歩き始めた頃、僕の頭上に広がっていた青空はもうどこにも見えはしない。

今は悪魔のような恐ろしい表情をした黒雲が、既に空の大部分を手中にしていた。

あっと言う間に山頂を越えた黒雲軍団は、そのままの勢いで谷間を占拠し、手当たり次第に辺り一面に洗脳活動を開始する。



最初に黒雲に取り囲まれた山頂は、グォー・・・ゴォー・・・と不気味な唸り声をあげ始め、苦し紛れに吐き出した息は、勢い良く斜面を駆け下り、やがて激しい風となって麓の森へと向かって行く。

慌てた森の木々は、右へ左へ体を捻じらせ、枝と枝をぶつけ合ってバシッ、バシッと恐ろしい音を周囲に響き渡らせている。

つい今しがたまで優しい表情でキラキラ輝いていた小川は、一瞬の内にどす黒い濁流へと姿を変え、ゴォーゴォー叫びながら周りの物全てを飲み込もうと暴れている。

まるで山全体が黒い悪魔に乗り移られたように、恐ろしい唸り声をあげ、森はいつまでも激しく踊り狂う。




グォオオオー・・・ビュウウウウー・・・



益々雨が強まり、風が勢いを増していく。



バシッ・・・ビシッ・・・ゴォー・・・




こんな時、僕に出来る事と言ったら、ただ数枚のシャッターを押す事だけ。

後は、大自然の中で自分がいかに無力でちっぽけな存在かを思い知る。




ビュウウー・・・ゴォオオー・・・




凄まじく急激な変化の中、僕はどうする事も出来ず、ただじっと時の流れの中に身を沈めていた。
・・・ただ、じっと。






どれくらいの時が流れたのだろうか・・・やがて西の空が少し明るくなり、森に光りが差し始めると、あれほど踊り狂っていた木々達も徐々に落ち着きを取り戻し、山頂の岩達も、もう叫ぶ事をやめていた。



「山の天気は変わりやすい」・・・そんな事は誰もが知っている。

だが自然の中で、実際にその急激な変化を体験し、知識ではなく自分の感覚として知っている人がいったいどれくらいいるだろうか?



日々繰り返される急激な変化を飲み込み、長い年月の間、何も変わる事のない手付かずの自然が残るカナダ。それこそがカナダの大自然の持つ不思議な魅力ではないだろうか。

僕は、山がもう一度激変する前に、急いで山を降りる事にした。





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