
太陽は既に大きく西へと傾き、夏だと言うのに吹き付ける風はとても冷たかった。
対岸の工場は既に作業を終えたのか、ひっそりと静まりかえり、いつもより少し荒れ気味の波だけが、バシャバシャと堤防を叩き続けていた。
この時期には珍しい夕暮れ時の霧が、薄っすらと二人の周りを包み込んだ時、男が静かに言った・・・
「寒くないかい?」
女は黙ったまま小さくうなずいた。
男は女の腰に腕を回し、優しく引き寄せたが、やはり黙ったままだった。
少しくたびれかけたブルックリンブリッジの下で、二羽のカモメがじゃれあう声だけが、少し異様なくらいキーキーと、よく響く。
もうほとんど沈みかけの太陽が、自由の女神のトーチに火を灯すと、それを合図にマンハッタンのビル群も明かりを灯していく。
「すごく・・・きれい・・・だね」
男が途切れ途切れにそう言った。
「夕陽?女神?ビルの夜景?・・・・それとも、私?」
女は声にはせず、心の中でそう聞き返していた。
キーキー・・・
二羽のカモメが、何かを急かすようにまた鳴いた。
「この景色をずっと一緒に見ていたいね」
男の言葉に、女は黙ったまま顔をあげた。
男は、女の腰に回した腕をもう一度優しく引き寄せ、こう続けた・・・
「10年後も、20年後も、30年後も・・・」
だが、嬉しさと不安からか、女は唇を軽く噛んだまま、言葉を探していた。
相変わらず堤防を叩き続ける波の音が、拍手しているようにも聞こえ、邪魔しているようにも聞こえた。
男は耳元に顔を寄せ、静かにもう一度言った。
「ずっと・・・一緒に」
女の口元が少し動いた・・・「本当に?」
今まで噛んでいた女の唇は、少し赤く染まっていた。
男は短くキスをしてから、こう言った・・・
「二人の女神に誓って・・・」
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