
今、僕達はモコモコした白い世界を擦り抜けて進んでいる
そう・・・何も見えやしない・・・
遠くからは、あんなにも柔らかく、優しそうに見えていたのに
無断で近づいた僕達が見たのは、まるで白い炎のように渦を巻き、恐ろしい顔で襲い掛かってくる彼の姿だった。
僕達は一瞬の戸惑いの後、ゆっくり彼の中へと吸い込まれて行った。
全く・・・何も見えやしない・・・
白くて爽やかに見えていた彼の姿は、もうここには無い。
中はとても薄暗く、四方八方から伸びた薄気味悪い手が、僕達の機体をガタガタ、ガタガタと容赦なく揺さぶり続ける。まるで行く手を邪魔するように。
ほんとに・・・何も見えやしない・・・
僕達は無言のまま、汗ばんだ手でしっかりとシートベルトを握り締めていた。
窓の外に在るべき物は何も無く、ただどんよりとした乳白色の世界だけが後方へと流れては消えて行く。
人は視界を失う事で恐怖を覚え、揺さぶられ続ける事でその恐怖は増幅していく。「早くここから出してくれ、もう充分だ」・・・だが、そんな言葉さえ、今は誰も発しない。
ふーっ・・・何も見えやしない・・・
僕がまたそう呟いた次の瞬間、薄暗く纏わり付いていた彼の姿が豹変し、眩い白い姿に変わっていた。
見えた・・・
目の前で突然大きく開かれた扉。
僕達をいじめ続けた分厚い雲の扉を抜けた先には、果てしなく続く北の大地がどこまでも広がっていた。
たっぷり積もっていた雪を溶かす力強い大地の息吹が、今そこから強烈に伝わって来る。
飛行機の小さな窓の中に広がる大きな世界に、僕達は直ぐに魅了され引き込まれていた。
すっかり揺れの収まったシートに、ゆったりともたれかかり、壮大な景色を眺めるうちに、僕達の凍りかけた心もまた、少しずつ溶けていくような気がした。
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