Photo breeze from CANADA (PhotoOfficeFujie)

カナダ・ブリティッシュコロンビア州・ミッション在住のカメラマン《藤江幸宏》が、バンクーバーの情報サイト「メイプルタウン」に掲載の写真を中心に、フォト・ブログとして毎月1日と15日にアップロード。

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カサカサ・・・

     カサカサ



僕がトレイルを歩いていると、毎日決まって目の前に飛び出して来る奴がいた。


彼の名は「ヨコシマ」。


カナダの広範囲に生息するアカリスの事だ。

背中側の毛が赤茶色、腹側の毛が黄色っぽい色をしていて、丁度その毛色の変る辺りが、横から見るとオレンジ色のラインが通っているように見えるのだ。


僕の目の前を横切り、体の横に線の入った奴・・・だから名前は「ヨコシマ」。


至って単純な思い付きだが、なぜかこの音の響きが気に入っている。



このヨコシマ、元々落ち着き無く走り回る奴なのだが、最近は以前に増して益々せわしない。
朝から晩まで、あっちへこっちへちゃかちゃか走り回り、とっても小さいくせに、とってもやかましい。
木の幹に必死にへばりつき、鋭い爪を立てて上下移動を繰り返すと、カサカサカサカサと爪の音が森の奥まで響き渡る。

カサカサカサカサ・・・・

カサカサカサ・・・・・・・・カサカサカサ・・・


脚を止め、目を閉じていても、僕にはヨコシマが今何処にいるのか直ぐに分かる。


カサカサ・・・カサカサ・・・


草むらを掘り返して木の実を隠し、小枝をくわえては巣穴に運ぶ。

カサカサ、カサカサ、大事な仕事

カサカサ、カサカサ、大急ぎ


カサカサ・・・カサカサ・・・


僕はまた目を閉じて、ヨコシマの奏でるカサカサを、じっと楽しんだ。



ヒューッ・・・

しばらくして、頬を撫でて行く風が妙に冷たく感じられ、そっと目を開ける。

見上げた空一面には、紅く色づいた秋の空が広がっていた。





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窓辺の花

     窓辺の花


早起きだが、少し行儀の悪い彼女が、バタンッと《右足で》窓を開けた。

窓の外には、いつもと変らない町並みが広がり、いつもと同じ時間が流れている。



朝陽が当たる2階の寝室。
ここの窓辺に置かれたフカフカのクッションが、彼女専用の特等席だった。



朝、時計の針が7時を少し回ると、たくさんの車と大勢の人々が、次々と目の前の大通りを通り過ぎて行く。


コツコツ靴音を響かせ足早に通り過ぎて行く人々
ブーブー騒音を撒き散らして消えて行く車

彼女は一人、毎日その景色を眺めていた。


でも、足早に歩く人達の目線は、いつも自分の足元ばかり
車のドライバーなんて、小さな窓から見える、前の車のお尻しか見ちゃいない

風の匂いが変った事も、街路樹の葉が少しだけ紅く変り始めた事も、何にも知りゃーしないんだ


彼女が窓辺で長いあくびをしても、大きく伸びをしても、誰も見向きもしなかった

彼女は一人、毎日ただ窓の外の景色を眺めていた。






ある日、男が一鉢の花を買って帰って来た。
殺風景なこの部屋には、少し不釣合いなほど鮮やかなピンクの花が、小さいけれども沢山咲いていた。


「さて、どこに飾ろうか・・・」


男は少し考えた後、日当たりの良い2階の寝室に入って行き、彼女の特等席の直ぐ横にそっと鉢を置いた。


「どうだい・・・凄く綺麗だろ?」

彼女は黙って男の方を眺めていた。

「これで僕が留守の間も寂しくないだろ・・・」

男は彼女の頭を優しく撫でてから、部屋を出て行った。



彼女は窓辺の花の横で、二回しっぽを振ってから、小さくミャ〜と鳴いた。



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夕暮れ時

        夕暮れ時



気が付けば・・・いつも夕陽を追いかけていた。


20代前半の頃、僕は北米大陸の魅力に取り付かれ、毎年数ヶ月間の撮影取材旅行を繰り返していた。

中でもアメリカ南西部地域は大のお気に入りで、特にロサンゼルス周辺では、毎年必ず長期滞在をする事に決めていた。



だが・・・

右も左も、何処へ行っても、知り合いなんて一人もいやしない
今と違ってパソコンなんて無い時代、雑誌を見てもテレビを観ても、英語なんて全く分かりゃしない

寂しくて、心細くて、泣きたくなる事だって何度もあった


でも・・・

僕は帰らなかった、いや・・・それどころか、その場所が大好きだった。





僕は、時計の針が3時を回ると、毎日少しずつ落ち着きが無くなっていった。

「今日は何処へ行こうか?・・・」

地図を見ながらあれこれ考え、気が付けばハンドルを握ってフリーウエーを西へと向かっていた。

広大な太平洋に沈み行く太陽を眺めていると、寂しさなんて全部吹き飛んでしまう。

わくわく、どきどき、言葉に出来ない不思議な力が体中から沸いて来て、僕にカメラマンとしての楽しみを教えてくれた。



ジョギングをしながら・・・サイクリングをしながら・・・ヨットに乗りながら・・・人々は全身で夕陽を楽しんでいた。


20代前半で、自信も実績も無かった僕は、そんな彼らの姿を切り取る事で、少しずつカメラマンとしての経験を積み、実績を作り、勇気を与えられ、こうして今もカメラマンを続けている。



綺麗な夕焼け空を見上げると、素直に嬉しく、そして何故か懐かしい気持ちになれるのは、そのせいだろうか・・・・




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癒し

      癒し




癒し系・・・

最近、日本の記事を読んでいると、この言葉を目にする機会が非常に多い。

癒し系・・・癒し系の性格・・・癒し系の顔・・・癒し系美人・・・癒し系音楽・・・癒し系の設計・・・癒しの宿・・・癒しの森・・・
例を挙げればきりが無いほどこの「癒し」と言う言葉が氾濫しているが、実は風景写真の中にもこの「癒し系風景」という物が存在する。


この日、日の出の前から撮影をしていた僕が、この湖に辿り着いたのは午後3時を少しまわった頃だった。

辺りには全く人影はなく、聞こえて来るのはただ岩を叩く波の音だけ。
夏だと言うのに冷たい高原の風が緩やかに吹き抜け、強い日差しと絡まって何とも言えない心地良さだった。
頭上にはどこまでも澄んだ青い空が広がり、ぽっかり浮かんだ綿雲が、ゆっくり楽しそうに風に流されていく。


それまでの一ヶ月間、山の中を転々として来た僕の体全体から、その時何かがすーっと抜けて行くような感じがした。

撮影旅行と言えば聞こえは良いが、知らない土地を撮影しながら転々と移動を繰り返すというのは、精神的肉体的両面でかなり過酷な作業が続く。当然、常に緊張やストレスを感じ、知らぬ間に疲労が蓄積されていく。
だがそんな事は撮影に夢中になっている間は忘れてしまうのだが、ふっと気を緩めた瞬間、それまで眠っていた何かが覆い被さって来るように、まるで体が石のように重く感じられ動けなくなってしまう。


僕がこの風景に出会ったのは、ちょうどそんなギリギリの時だった。

目の前に広がるのは青と白の単調な世界。

だがこの単調で神秘的な景色が、ワクワク、ドキドキ体の奥底から湧き上がるカメラマンとしての抑えきれない気持ちを僕にぶつけてくれ・・・と、同時に不思議な程に心を落ち着かせ、優しい気分にもしてくれる。


夢中で切り続けるシャッターの音は、いつしか波の音に絡まり、風に誘われ自然と同化していく。そして気が付けば僕自身も風景に溶け込んでしまっていた。


全身の力が抜け、ただのんびり湖畔に寝転がり、大の字になって見上げた先には、僕の身も心もリフレッシュしてくれる《癒しの風景》が何処までも広がっていた。




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激変

       激変


突然の激しい雨だった。



トレイルを歩き始めた頃、僕の頭上に広がっていた青空はもうどこにも見えはしない。

今は悪魔のような恐ろしい表情をした黒雲が、既に空の大部分を手中にしていた。

あっと言う間に山頂を越えた黒雲軍団は、そのままの勢いで谷間を占拠し、手当たり次第に辺り一面に洗脳活動を開始する。



最初に黒雲に取り囲まれた山頂は、グォー・・・ゴォー・・・と不気味な唸り声をあげ始め、苦し紛れに吐き出した息は、勢い良く斜面を駆け下り、やがて激しい風となって麓の森へと向かって行く。

慌てた森の木々は、右へ左へ体を捻じらせ、枝と枝をぶつけ合ってバシッ、バシッと恐ろしい音を周囲に響き渡らせている。

つい今しがたまで優しい表情でキラキラ輝いていた小川は、一瞬の内にどす黒い濁流へと姿を変え、ゴォーゴォー叫びながら周りの物全てを飲み込もうと暴れている。

まるで山全体が黒い悪魔に乗り移られたように、恐ろしい唸り声をあげ、森はいつまでも激しく踊り狂う。




グォオオオー・・・ビュウウウウー・・・



益々雨が強まり、風が勢いを増していく。



バシッ・・・ビシッ・・・ゴォー・・・




こんな時、僕に出来る事と言ったら、ただ数枚のシャッターを押す事だけ。

後は、大自然の中で自分がいかに無力でちっぽけな存在かを思い知る。




ビュウウー・・・ゴォオオー・・・




凄まじく急激な変化の中、僕はどうする事も出来ず、ただじっと時の流れの中に身を沈めていた。
・・・ただ、じっと。






どれくらいの時が流れたのだろうか・・・やがて西の空が少し明るくなり、森に光りが差し始めると、あれほど踊り狂っていた木々達も徐々に落ち着きを取り戻し、山頂の岩達も、もう叫ぶ事をやめていた。



「山の天気は変わりやすい」・・・そんな事は誰もが知っている。

だが自然の中で、実際にその急激な変化を体験し、知識ではなく自分の感覚として知っている人がいったいどれくらいいるだろうか?



日々繰り返される急激な変化を飲み込み、長い年月の間、何も変わる事のない手付かずの自然が残るカナダ。それこそがカナダの大自然の持つ不思議な魅力ではないだろうか。

僕は、山がもう一度激変する前に、急いで山を降りる事にした。





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モーニング・クラウド

        モーニング・クラウド



風景写真の撮影は、日の出、日の入りの前後数時間が勝負・・・当然、朝は早く、まだ暗いうちから動き出さねばならない。

真っ暗な空を睨み、星の見え方でその日の朝の天気を予想する。

だが、カナダやアメリカの西部海岸地域には「モーニング・クラウド」と言う言葉がある。

海上と陸地での熱伝導の違い、北太平洋の冷たい海流、様々な要素が絡み合うのだろうが・・・早い話が、早朝に海から流れ込む、低く垂れ込めた霧のような雲の事をこう呼ぶのだ。
雨雲等とは違いこの雲は、太陽が昇り気温が上昇してくると自然と消えてしまうので、つまり《朝の雲=モーニング・クラウド》と呼ばれているそうだ。

言葉だけを聞いていると、なんだか少しお洒落な響きもするが・・・これが撮影となると、かなり厄介な相手になる。

天気は良いはずなのに、空は全く見えず辺りは薄暗く、光や時間の流れがまるで読めない。
では、撮影を中止にすれば良いのかと言うと、この判断がまた難しい。なぜなら、この雲は朝の雲、突然消えてなくなるモーニング・クラウドだからだ。


僕は長年続けて来た撮影の勘で、雲が晴れた場合の辺りの様子を予想しながら森の中を歩き、ある地点でカメラを構えて待つ事にした。

しーんっと静まり返った森の中に、遥か彼方からかすかに波の砕け散る音だけが響いている。

徐々に雲の厚みが削られていくと、それに比例して雲の流れがはっきり目視出来るようになっていく。

「よしっ・・・晴れ間は近い」

僕は心の中でそう叫び、カメラを持つ手に自然と力が入る。


サッと開けた雲間から朝の光が差し込んで来ると、それまで眠っていた森全体が息を吹き返したように輝き始める。


なんとも言えない神秘的な空間を演出してくれるモーニング・クラウド。

この朝の不思議な時間帯が、僕はたまらなく気に入っている。





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日差し

        日差し



ふ〜っ・・・

僕は天を見上げ、恨めしそうに息を吐き出した。

奴の日差しは凄まじく強烈で、部外者である僕に対しても全く容赦なく照り付けてくる。

360度見回してみても、どこにも日陰なんてありゃしない。

在るのは、ただカラカラに乾いた砂と岩の世界だけだ。

申し訳程度にわずかに浮かんだ雲は、とても奴の力を遮るほどの器ではない。



何処までも続く荒野を進む・・・

暑さはもうほとんど感じない。

じりじりと照り付ける日差しは、暑さではなく強烈な痛みを容赦なく照り付けてくる。



足の裏が、燃えるように熱い。

熱せられた砂の上を歩いている気分は、もうほとんどフライパンの上と変わらない。

下手に地面に座り込むと、火傷をしてしまう。

今はただもうろうとする意識の中で、歩き続けるしかない。




僕は立ち止まり、もう一度天を見上げた。

「お前の力は、もう十分にわかったよ・・・」

僕は焼き付けられた腕でカメラを構え、焼き付けられた岩山の姿と奴の力強さを、しっかりフィルムに焼き付けておく事にした。




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